
もっと…
(私がこんな事をずっと思っていたなんて知られたら、呆れられるかしら…?)
(それとも…)
カッ!カッ!カッ!カッ!
最初はゆっくりと…そして徐々に速いリズムを刻みだした足音が、目的地を目指し移動して行く。
リズムが最高潮に達した足音は、とある場所で急激に止まった。
沢山の本が置かれている書庫である。
「橘さまっ!」
いつもの様に地球に帰る方法を探す為に本を調べていた橘 響次は、部屋の入口から掛かった声で、
調べていた本から視線を上げた。
自分がいる場所から左側に位置する部屋の入口に目を向けた。
「どうしたの…永遠さん」
そこには、先程「ちょっと休憩…」と言って、メグルと一緒に出て行った筈の永遠冴香が息を切らせて立っていた。
乱れている呼吸を整え様と努力している冴香を、響次は不思議そうに見詰めた。
ハァ…ハァ…と、冴香は呼吸を繰り返している。
「何かあったの?永遠さん」
慌てている冴香を、過去に一度だけ見た響次は、何事があったのかと驚いているようである。
ある程度息が整った冴香は、響次を見据えて言葉を投げ掛けた。
「お立ちになって下さい!」
冴香の突然の言葉に、響次は反発せず素直に机に手をついて立ち上がった。
机と椅子との間に出来た空間から自分の体を動かし、椅子の横に立った。
冴香へと、体を向ける。
「これで良いのかな?」
驚いた事を挽回しようとしているのか、響次はいつもと同じ様にお伺いを立てた。
さっきの勢いはどこへやら…冴香はコクン…と頷いた。
響次は、左の眉毛を訝しそうに歪めた。
「大丈夫?永遠さん」
いつもと違う冴香の様子を不安に思い、響次が足を動かすと
「動かないで下さい!」
冴香が顔をキッと上げ、声を荒げた。
その顔は、響次に対して怒っているのか険しい表情をしていた。
「良いですか?そのままの状態から動かないで下さい!」
「?」
不審に思いながらも冴香の言う通りに動かないで居る響次に、冴香は一歩…二歩…と距離を縮めた。
強く握った拳を胸の位置に置き、更に、一歩…二歩…と微かに震えている足を進める。
目的地たる響次の真正面に立つと、鋭い視線を向けた。
「腕をお挙げになって下さい!」
「どうして?」
「良いから、お挙げになって下さい!」
「はいはい…」
響次は冴香に命令された通りに、何の感慨も無く両腕を横に上げた。
腕と肩が平行になったのを確認すると、冴香はおずおずと腕を伸ばし、背中で絡ませた。
顔を響次の胸に埋める。
響次は本日二度目の驚きを胸に、息を詰まらせた。
「永遠さん?」
「何も仰らないでっ!!」
冴香は響次の胸に顔を埋めたまま声を荒げた。
その言葉で、響次は腕を垂直方向に上げたままの格好で、
いつ終わるか分からない、嬉しいような辛いような時間を過ごす事が決定した。
奇妙な空気が二人の間に流れている。
腕を上げたままの状態で2分は我慢したであろう響次が、流石に根を上げた。
「永遠さん…腕、下ろして良い?」
響次は、殊更甘い声で提案したが
「駄目です」
冴香の簡潔な答えが返って来た。
更に1分間手を上げた状態を保った響次は、先程ようやく冴香から解放された。
響次を開放した冴香は、響次と目を合わせない様に背を向けて立っている。
同じ姿勢をしていた為に固まってしまった筋肉をほぐそうと、響次は何度か首を回した。
冴香に言葉を投げ掛ける。
「ねぇ、永遠…」
「質問は無しです!」
冴香は響次の言葉を遮ると、両手で火照った頬を押さえた。
響次は、自分を見ようとしない冴香の髪の隙間から覗く耳が、赤く染まっている事に気が付いた。
意地の悪い笑顔が浮かび上がって来た。
「こういう時に女性に質問するなんて無粋ですわ!」
冴香の照れ隠しの返事に、響次は意地の悪い笑顔のまま答えた。
「ハンカチなら用意してあるんだけどね…」
含みのある答えだが、だからと言って、冴香から何かを言える状態では無かった。
先程自分がした事で頭が一杯で、そこまでの余裕は無かった。
軽くパニックを起こしている冴香の背中を、胡散臭い笑顔で見詰めていた響次が
良からぬ企みを胸に足を踏み出そうとした瞬間、こちらに近付いてくる足音が耳に入ってきた。
響次は一瞬、眉間に深い溝を作ると、何事もなかった様に足を元に戻し席についた。
開いたままの本に視線を無理やり落とす。
近付いてくる足音に気が付いた冴香は、両手を頬から外すと、わざとらしい咳払いを一つ落とした。
暫くして、メグルが冴香の前に姿を現した。
「あれ?永遠さん、先に帰って来てたの?」
「えっ、えぇ…」
「そう…」
メグルは冴香の態度を対して気にする事無く自分の席に座ると、目の前の本に集中し始めた。
冴香は小さく深呼吸すると、綺麗な回れ右を披露して、自分の席へと歩き出した。
その後、二人は何事もなかった様に調べ物に没頭していた…。
表面上は…。
日もすっかりと落ち、夕飯を告げに来た雪野を合図に三人は今日の調べ物を終えた。
夕食後、自分の部屋に引き上げた冴香は、床とドアの間に差し込まれている物体に気が付いた。
差し込まれていた物体−四つ折りの紙−をゆっくりと抜くと、冴香はドアを開け、部屋に入った。
後ろ手に閉めたドアに寄りかかり、紙を広げた。
『今度は僕の番だよ』
差出人の名前は書かれてはいなかったが、誰からの物なのか直ぐに思い当たった。
冴香は広げた時と同じ様に、ゆっくりと紙を元の状態に戻した。
紙を指で挟み口元に当てると、差出人のいる部屋へと顔を向ける。
「…考えて置きますわ。…でも…」
(抱きしめるのは、殿方の専売特許じゃありませんのよ?橘さま…?)
冴香は不敵な笑みで申し出を受けると、
今度はどうやって響次を困らせようかと考えを巡らせた…。

あるは様 2000hitリクエスト 『抱きしめるシーンが入っている話』純メグでもタチトワでも可
純メグ、タチトワどちらでも構わない…というお言葉を頂いたので、
お言葉に甘えさせて頂いて、タチトワで書かせて頂きました。
永遠さんは、前から後ろから…と、どちらからでもいけるイメージがあるのですが、
橘はと言うと…どうしても背後から『抱きしめる』(注:しかも、なんだかエロくさい)
イメージが…。(コラッ!)
こんな感じのお話になりましたが、あるは様 宜しいでしょうか?(心拍数上昇中)
リクエスト有難う御座いました!!
あるは様からリクエストのお礼に…と、すんばらしく素敵な絵を頂いてしまいましたvv
素敵な頂き物はコチラッ!